フランス紀行 5

フランスでは私たちは外国人でした〜!

なんて当たり前ですが、日本でも時々海外からいらした旅行者を見かけます。
もしそんな旅行者が戸惑っている姿を見たら、少しでもお役に立ちたいな〜などと思います。でも実際は英語で話しかけられたら少し身構えてしまうというか、僅かなボキャブラリーを捻り出してシドロモドロになってしまいます。
そんな時は偶然周りに居合わせた日本人に応援をお願いして、なんとか旅行者に良いアドバイスをできるようにしていました。


パリ・オペラ座近くのユニクロに行った時のことです。
観光地にあるユニクロでしたが、店内には旅行者らしい人はいなくご近所にお住まいのフランスの方々が普段着のまま気楽に買い物を楽しんでいる様子でした。
私はというと、パリが予想外に寒く手持ちの防寒着だけでは凍えてしまうので、暖かそうな暖パンを手に取って試着室を探しました。
そして、手に洋服を持って並んでいるご婦人方数名がいましたので「Fitting room?(試着室?)」と聞きました。 すると明らかに驚いている様子。

そしてご婦人方数名で輪になって相談をされてから、ニッコリ笑い「Yes〜」との返事。
それから私が試着室に入って無事終えるまで、遠くからソッと見守ってくれていました。

私が話しかけた時の驚きぶりと、そっと見守る眼差しの暖かさ…。

……あれ?なんだか私が日本でやっていたのと同じ気がする〜……

ここはパリ中心部の観光地なので、フランスの皆さんは旅行者に慣れていて、自分が話しかけることで驚かれる事は今まで無かったのです。
でもここには旅行者らしい人は私たちだけで、素のフランスの方々とお話しできる数少ない場所でした。
旅行者の役に立ちたいという心は、言葉を超えて伝わるものなのですね〜。
とっても親近感が湧いて暖パンを持つ手と心が更に温かくなっていきました。


海外旅行で役にたつのはやはり英語です。
多くの人がやっているように、私も英会話教室に通ってそれなりに頑張って勉強した時期もありました。
でも自分の気持ちをさらっと相手に伝えられるように英語を操るまでにはなりませんでした。
心の奥に、苦手意識が居座っているように感じるのです。

そう言えば私が学生の頃、英語の先生がこんな事を教えてくれました。
その英語の先生は20年もアメリカに住んでいたので、それはそれは発音が良かったのです。

先生「『コーヒーを下さい』という時は『カッパの屁 プリーズ』と言いなさい」

え?  ア カップ オヴ コフィ  が   カッパのへ   なのですか?… (o_o)

先生「ウォーターは『藁』、オレンジジュースは『ゴ臨終』と言いなさい」

私「…」チーン

私はその瞬間英語の難しさを悟りました。書かれた英文を読むだけでは、英語を話したことにならないのだと… そしてちょっぴり英語の苦手意識が育ったのでした。



私たちのフランス滞在の大きな目的は日本画を展覧会に出展することなのですが、空いた時間を利用してたびたび観光地にでかけました。
ルーブル美術館、シャンゼリゼ通り、凱旋門、パッサージュ、エッフェル塔、チュイルリー公園、セーヌ川…
秋の陽光の中、美しいパリを青華と2人でゆっくり散策しました。


下の動画はチュイルリー公園で撮ったものです。



そして名残惜しいですが、そろそろ帰国の日を迎えることになりました。

フランス、シャルル・ド・ゴール空港を出発してフィンランド、ヴァンター国際空港で東京行きに乗り換えます。
フランス滞在最後の食事は、空港でキッシュとスープを美味しく頂いてから飛行機に乗り込みました。

オヴォワー(さようなら)、フランス


帰国の東京行きは一旦フィンランドで乗り継ぎです。
トランジットの時間は3時間ほどあるので、フィンランド・ヴァンター国際空港内でちょっとショッピングを楽しめます。
ウキウキしながら機内からの景色を眺めていました。

でもこの時はたった数時間のフィンランド滞在で、英語を駆使することになるとは予想だにしていなかったのでした。

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フィンランドに向かう機内でアナウンスがありました。

よくよく聞くと、何かトラブルがあって到着が1時間遅れるとのことでした。
トランジットは3時間ですので、ショッピングの時間が足りないかも…と思いました。

しばらくするとまたアナウンスがありました。
そのトラブルが解消されず、さらに1時間到着が遅れるとの声。

3時間あったはずのトランジットの余裕が1時間に減ってしまいました。
たった1時間のトランジット‼︎
えー!私たちは東京行きに乗れるのでしょうか〜


フィンランド、ヴァンター国際空港に到着しました。
急いで飛行機を降り入国審査場を抜けると、目の前に現地スタッフらしき女性が「ツゥ トウキョウ(東京行き)」と声をかけていました。
急ぎその方のもとに行くと、私たちの他に数名の日本人が集まっていました。
そして女性スタッフの「プリーズ カム ウィズ ミー(私についてきてください)!!」の号令のもとに、人波を避けながら空港内を走って走って走ったのでした。
視界の隅でマリメッコのピンク色を見、ムーミンのニョロニョロを見ましたが、立ち止まってショッピングを楽しむ余裕は全くありませんでした(^_^;)

無事、東京行きの出発カウンターを抜けた時は、汗だくで息も絶え絶えでこんなに長い距離を走ったのは何年振りだろうとグッタリしてしまいました。

息を整えそのロビーを見渡すと、椅子が数台置いてあるだけの簡素な作りの狭いスペースに東京行きのお客さんが大勢立ち尽くしていました。
ああ〜、無事間に合ったと胸を撫で下ろした時、日本語のアナウンスが「東京行きは1時間の遅れで出発します」と告げました。

ええ〜?マリメッコもムーミンも、そしてトイレさえも素通りして走って、この狭いスペースで1時間待つの?

ショッピングは諦めたと言っても、トイレは致し方ありません。
出発カウンターを戻りその前に通過したロビーまで戻らないとトイレはありませんので、せめてトイレに行きたいと、男性職員に尋ねました。

私「メイ アイ ゴー ツゥ バスルーム?(お手洗いに行って良いですか?)」

男性職員「イエス、アイ ウィル キープ ユァ チケット(良いですよ、チケットを預かります)」とやんわりとした感じでカウンターを通してくれました。

それにしても…
あまりにも急いで走ったので気付くのが遅れましたが、フィンランドの方々の英語のなんと分かりやすい事!
先ほど一緒に走った現地スタッフの女性が、最後私たちに話しかけたサンキューの言葉。
思い返せばそれはカタカナのサンキュー以上、もはや数字の3と9レベルでした!
thの発音は舌を軽く歯で挟んで…と教わった記憶を完全に蹴散らすほどの破壊力をもつ3と9。


なんて心地よい発音…
コーヒーが欲しい時に「カッパの屁」と言わなくても良いんだ〜
心の奥に居座っていた苦手意識が泡のように消えていくようでした。

たった数時間のフィンランド滞在でしたが、私たちの心を優しく包み「また、来たいな〜、フィンランド…」とほっこりとして東京行きのフライトに乗ったのでした




城下八重子